スウェーデンの介護現場を支える外国人労働者たち



【スウェーデン福祉の現場における外国人介護労働者の重要性】
スウェーデン地方自治体・地域団体連合(SKR)は、2023〜2033年の福祉人材需要を予測したレポートを発表しました。そこでは、高齢者福祉の人材需要が32%増加する一方、労働力人口の増加は極めて限定的であり、唯一の労働力が増加すると見込まれているのは「外国出生者」によるものと明示されています。
実際に高齢者福祉の現場では、介護補助員の半数以上、准看護師の3分の1以上が外国出生者で、特に若年層の外国人男性がその担い手となっています。外国出生者はスウェーデンの福祉制度を支える上で不可欠な存在であり、彼らなしでは自治体や地域の人材確保は成り立ちません。
【スウェーデンの移民】
2024年のスウェーデンの在留許可は就労ビザが一番多く28.8%、 家族ビザ25.9%、難民ビザ23%、学生ビザ19.7%となっており、合計で約93,900人の方がスウェーデンに移民しています。介護職に最も多いのは、家族ビザと難民ビザの保持者です。就労ビザで介護職に就く人は少なく、多くはスウェーデンに移住後、語学や職業教育を経て就職する流れが一般的です。
【スウェーデンにおける外国出生者の介護職就労とキャリアパス】
スウェーデンでは介護補助員は特別な資格を持たずに働くことも多く、現場の経験や研修でスキルを身につけていきます。
1.自治体の無料コースでスウェーデン語を学ぶ
2.介護施設でインターンをする
3.無資格の介護助手(undersköterskaの補助)として就労
仕事内容:
食事の準備・配膳・片付け
衣服の着脱や簡単な清掃援助
部屋の掃除やベッドメイク
高齢者との会話や散歩の付き添い
簡単な記録
4. スウェーデン語力や経験を積みながら、正式な資格や専門教育を受けることも可能
介護・福祉プログラム(高校レベルで約3年間の無料職業教育)
5.介護の正式資格を取れば、より責任のある仕事や昇給も見込めます
【介護現場で増える外国人介護労働者:現場の声とジレンマ】
研究『Perspectives on Migrant Care Workers in the Long-Term Care Sector』では、スウェーデンとノルウェーの介護現場で働く外国人介護労働者と管理者の意見を分析しています。
ー管理者の視点ー
管理者は外国人介護労働者を「穏やかで共感力が高く、本当に心から高齢者に接している」「勤勉で責任感が強い」と高く評価しています。その背景には、多くの外国人介護労働者が「家族を大切にし、年長者を敬う文化を持ち、それが介護の質に繋がっている」という点があります。
「彼らはゆったりとした落ち着きがあり、高齢者に対して真摯に接している。それが職場の中で特に好まれている。たとえば男性の外国人介護労働者は時間をかけて丁寧にケアしてくれる。」(ノルウェーの施設ユニットリーダー)
管理者は、外国人介護労働者に対して「献身的で勤勉」といったイメージを持ちやすく、個々の事情や多様性が見過ごされることがあります。たとえば、「断れない立場だから」と、本人の希望を十分に確認せずに、クリスマスなどの夜勤を優先的に割り当てるケースもあります。
また、違いを無視して「全員同じに扱えば公平」とする一方的な平等も、外国人にとっては不利になることがあります。一方で、家庭との距離や文化的価値観に配慮し、役割や働き方を調整している現場もあり、こうした対応が職場の関係性をよくする例も見られます。
このように、「違いを認めて配慮すること」と「全員を平等に扱うこと」のどちらかに偏ると課題が生じます。管理者は、そのバランスをどのように取るか、日々模索しているのが現状です。
ー外国人介護労働者の視点ー
外国人介護労働者は「適任の労働者」として肯定的に語られる一方で、彼らにとって介護労働は必然的な選択であり、北欧出身者以上に「努力しなければならない」現実があるという反論もあります。
例えば、「スウェーデンでは、スウェーデン人は流暢な言葉が話せればよいが、移民は「それ以上」を示さなければならない。」(スウェーデンで働くエチオピア出身の介護助手・男性)「介護の仕事は私にとって『生活のための手段』で、母国での専門職は言葉や文化の壁で難しかった。」(スウェーデンで働くインドネシア出身の介護助手・男性)
このように、「勤勉さ」や「まじめさ」は、単なる個性ではなく、社会的・経済的に不利な立場にある中で必要な自己防衛手段であることが強調されます。また、介護職を通じて「社会に受け入れられたい」という思いと、「どこまでいっても『移民』として見られる」現実のギャップも浮き彫りになります。
【おわりに:個人的な視点から】
今回の研究からは、外国人介護労働者が見せる「勤勉さ」や「まじめさ」が、単なる個性ではなく、社会的・経済的に不利な立場にある中での自己防衛の手段であることが見えてきます。
また、「どこまでいっても移民として見られる」という声に触れることで、努力の背景にある葛藤や孤独に対する理解の重要性も浮かび上がります。
彼らを「移民」ではなく一人ひとりの個人として尊重し、働きやすい環境を整えていくことは、今後さらに重要になるのではないでしょうか。そうした姿勢が、彼らの能力を引き出し、より良い人材へと成長する土台になると思われます。
高齢化と人手不足、少子化という課題は、日本を含め世界の多くの国で共通しています。とくに人手不足が深刻な今、外国人材の受け入れを「どう共に働き、どう育てていくか」という視点で捉えることの大切さは、スウェーデンの事例が示しているように感じられます。
もちろん、スウェーデンにも課題は残されていますが、「まず現場で受け入れ、働きながら学ぶ」仕組みは、多様な人々と共に未来を築くための一つのヒントと言えるのではないでしょうか。
参照元:
https://skr.se/skr/tjanster/bloggarfranskr/arbetsgivarbloggen/artiklar/utrikesfoddaalltviktigareforvalfarden.86057.html
https://www.migrationsverket.se/om-migrationsverket/statistik/beviljade-uppehallstillstand.html
https://journal-njmr.org/articles/10.33134/njmr.477


SQC newsletter
スウェーデンの最新の福祉情報を
スウェーデンの最新の福祉情報をお求めですか?
お求めですか?
SQCの今後のイベント情報や、日本ではあまり知られていないスウェーデンの社会的な課題に 対する事例など、スタッフが選りすぐったニュースをお届けいたします。
recommended posts