スウェーデン福祉実習体験記 ― 言葉や文化の壁を越えたつながり



スウェーデン長期福祉実習に参加されているお客様に1か月ぶりにお会いしました。初日にお話を伺ったとき、彼女はこう話してくれました。
「介助の技術を学びながら、コミュニケーションの方法についても学びたいんです。言葉や文化の壁を越えて繋がることができれば嬉しい。そしてそれが今後の仕事の自信につながればと思っています。」
彼女が掲げた目標は、この実習の中で確かに実現されていました。彼女のまわりにはいつも職員や利用者さんの笑顔が溢れ、自然と人が集まっていたからです。彼女の明るさ、親切さ、そして真摯な姿勢が、施設全体をポジティブな空気で包んでいました。
― 施設の違いについて伺うと
「前回は障がいが重い方が多かったので、ケアや穏やかな日常のルーティーンが中心でした。一方、今回の施設ではアートや音楽など、さまざまなアクティビティが行われていてとても楽しいです。私が日本で働いている施設は、その両方の特徴を併せ持っているような感じです。」
利用者さんにも職員にも優しい工夫
― 日本とスウェーデンの施設の違いについて
「重度障がい者の方が通う施設では、各部屋にリフトが備え付けられていたり、日本とは違う器具の使い方に驚きました。たとえば「プロンボード(起立保持具)」は、私の施設では職員3名がかりでやっと立ち上がることができるのですが、こちらのものはボタン操作だけ。職員の負担が少なく、より安全で、利用者さんと職員の両方にとってストレスが少ないと感じました。」
活動内容そのものはスウェーデンも日本も大きくは変わらないそうです。ただし、活動の進め方や考え方には違いがあるようです。
「日本ではグループで同じ時間に同じ活動をすることが多いですが、こちらでは利用者さん一人ひとりが自分のスケジュールで過ごしています。職員の助けがなくても大丈夫な方は、一人で活動をしているんです。また、少しでも興味を示せば挑戦させてみる。意欲を見せたらそれを止めない。そうした“自由を尊重する姿勢”が印象的でした。もちろん日本でも、できる限り利用者さんの意思を尊重しながら支援していますが、スケジュールや他の利用者さんとの兼ね合いを考えると、スウェーデンほど自由にできないのが現状です。“安全”と“自由”はどちらかを選ぶものではなく、両立できるということを、スウェーデンの現場が教えてくれたように思います。」
ゆったりとした空気が生む安心感
― 前回の施設では職員がゆったりしているとおっしゃっていましたが、今回もそうでしょうか?
「今回の施設でも、誰も慌ただしく動いていなくて、職員の皆さんがとても穏やかです。その影響なのか、利用者さんも皆さん落ち着きがあり、思いやりのある方ばかり。一人ずつのスペースが広くて、一人でいられる部屋も多い、そして個人や自由が尊重されているからこそ、利用者さんは自分の意思をしっかり持っていらっしゃる。また、スタッフの休憩室はとてもオシャレな個室で「休憩時間以外でも、疲れたときは少し休んでいい」と言われましたが、日本人の感覚だと、なかなか休憩時間以外に休むのは恐縮してしまって…」と笑いながら話してくれました。
「フィーカ」から学んだ、心の距離の近づけ方
― 帰国後に職場で実践したいことについて
「やっぱりフィーカですね。日本の施設でも利用者さんとおやつの時間を一緒に過ごしますが、職員が隣に座って一緒にお茶を飲んだり、ゆっくり話したりすることは少ないです。スウェーデンのフィーカでは、職員と利用者さんが同じテーブルでお茶を楽しみます。その時間があることで、関係がぐっと近づき、空気がとても柔らかくなるんです。」
「“お世話する人とされる人”という関係ではなく、“対等に過ごす仲間”という意識を持つことで、お互いのストレスが軽減され、結果的にケアの質も利用者さんの満足度も上がるのではと感じました。」
感謝と涙に包まれた最終日
訪問した日は、ハロウィンであり、その施設での実習最終日。職員の皆さんは、実習者さんに内緒で“サプライズ・フィーカ”を用意していました。ハロウィンのデコレーションやお菓子が並ぶ中、施設のマネージャーがこうスピーチしました。
「あなたはとても頼りになる存在でした。あなたを迎えられたことは、私たちにとって本当に大きな喜びです。これからも仲間として一緒に働けたら最高です。」
プレゼントには、「君がスウェーデンの秋が好きだと言ってたから」と絵の得意な職員が描いた油絵も。涙ぐむ実習者さんに、担当していた利用者さんがそっと手を差し伸べる姿がとても印象的でした。
音楽がつないだ心
実習中、オペラが得意な利用者さんは、実習者さんのピアノ演奏に合わせて歌うのをとても楽しみにしていたそうです。「あの利用者さんはこれまでは週2回しか来なかったのに、彼女が来てからは毎日来るようになった」と職員さん。最終日には、「これが最後だから」と抱えきれないほどの楽譜を持って現れました。
その歌声に他の利用者さんたちも刺激され、歌声を披露。「彼女が来てから、たくさんの利用者さんが変わったんですよ」と、職員さんが嬉しそうに教えてくれました。実習者さんは、日本の施設でも同じような活動をしているので、情報交換できればと考えて、職員さんと連絡先を交換していました。きっとこの関係はずっと続いていくのだろうなとほっこりしました。
挑戦が未来を豊かにする、スウェーデンでの成長と学びの体験
ぜひ日本の介護職のみなさんにも、この体験をしてもらいたいと、快くインタビューにお答えいただきました。
彼女の残りのスウェーデンでの実習や、日本でのご活躍を心から応援しています。そして、この実習を通じて生まれたご縁がこれからも続くことを願っています。
SQCでは、お客様のご希望に合わせて期間や内容をカスタマイズできるオーダーメードプログラムをご提供しています。オンライン・現地の両方に対応しており、おひとりから団体まで幅広くご参加いただけます。
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